岡崎工業出向
平成元年4月 岡崎工業株式会社に出向、常務取締役
生産本部副本部長を拝命した。 岡崎工業は建設業にノミネートされた一部上場会社であり、製鉄所の作業にも関与しその点ではなじみのある会社ではあった。
建設業を扱う建設本部、鉄鋼製造にかかわる作業、整備、個別案件を行う生産本部と、プラント本部の3本部があり、年商600億円ほど、その半分は鉄鋼業関連でこの部分では安定的に収益をあげていた。
しかるに、突然平成元年12月に山九株式会社との合併を公表した。 当時はバブルのピークを迎えており、異様な感のある合併劇であった。 業界紙には憶測記事が出たがいずれも当たらずと言えど遠からず程度で納得できるものではなかったように思った。
なぜ企業が消滅する事になったのか、真相は闇の中に置かれたまま放漫経営の一言で済まされてしまい、表面的には奇麗ごとを並べて進められてしまった。
最近の経済状態の非常な沈滞から、企業倒産が高水準で続いており、また合併による企業の存続もますます行われるであろう。 こうした場合、真相は闇の中で必要最小限の情報開示で事が進められていくことについて、自分の経験を基に合併にかかわる問題点や、親会社と協力企業の立場等について思いついた点を述べてみたい。
インサイダー情報になる部分は、時効になってから回顧します。 鉄鋼業から離れないと書けない部分もあります。
企業の合併
一般的に企業は存続しつづけることを願っているものである。 諸外国では(東南アジアを含めて)起業家が利益をあげている企業を売却する例があるが、少なくとも日本ではその傾向は極めて少なく、存続することに価値を認める面がある。
従って経営に危機が訪れると、企業が存続できなくなる事態を退避するために、知恵者が知恵を出し合い破滅の先送りを図るのが通常である。 底流には先送りする事で、将来には右上がりの成長を前提にした楽観的見とおしが隠されている。
所がこの方式が丸く納まらないのは、右上がりの成長が止まってしまい損失が低減出来ないか、表面に見えている現象(損失)についての解は作れても、隠されている問題にまでは対応出来ない事による。 国鐵問題、銀行問題など典型的な例であろう。
破滅の先送りは、まさにモラルハザードの問題に直面し、企業の存続の危機は隠されてしまい、表面的には余剰要員の削減程度で済まされてしまう。 経営陣には支援する企業、銀行から役員が乗り込んでくるが、親会社のほうを見ながらの雇われママでは真の改革なぞ出来るわけが無い。 真の改革は辛いものにしかならないが、辛口は状況を知らない従業員からそっぽを向かれてしまう羽目になる。 従って浮草稼業の雇われママとしては、親会社の顔を見ながら経営に責任の無い親会社の知恵者の意向を斟酌するのが精一杯となってしまう。
抜本的な改革が出来ない以上、どこかで行き詰まる事になる。 岡崎の場合には15年間も先送りした事になった。 企業が消滅しても商権はあるわけで、それを手掛かりに合併と言う事になるが、合併と言うのはする方される方双方ともに満足できるものではないので、見えない所で数多くの悲喜劇が演じられる。 当事者にとっては精一杯の演技ではあるが。
まずは合併の引き金となった合併の公式発表と解説を
合併報告 (平成元年12月25日記者発表用資料から抜粋)
山九株式会社と岡崎工業株式会社は、平成2年10月1日をもって合併を行うべく、本日合併覚書に調印しましたので、ここにご報告いたします。
1.合併合意の経緯
今日、企業を取り巻く内外の環境は産業、経済構造の大きな変化と国際化の進展の下で急激な展開を示している。
このような情勢下、両社はこれまで夫々に業績の向上に努めてまいりましたが、平成元年7月岡崎工業株式会社から、企業の立地条件に多くの共通点を有する山九株式会社に対して、将来の企業経営基盤の拡充と更なる業容発展のために、共同して対処すべく合併の意向打診がありました。
両社はその後、再々協議を重ねました結果、両社の位置する運輸・建設両業界共に、国際化をも含めた経営環境の変革が必定と想定される状況下において、両社の合併は事業展開力の特性化と拡充により顧客へのより効率的なサービスを提供できる体制を確立する事。さらに経済変動に強固で柔軟に対応できる体質を達成できることで、効果あるものとの見解の一致をみましたので、合併覚書の調印に至った次第であります。
#突然こう言われてもなんの事やらわからぬものであるが、さすがに業界紙でははっきりとは書かないものの、ほぼ的を得た解説をしていた。 死んだ子の年を数えてもせん無い事で、今はその原因等は述べないが、48年末のオイルショックの後遺症から、岡崎工業が自力では存続できなくなった事、山九は岡崎との合併に再し、岡崎の損失補填をする事にはなっていなかった事のみを述べておきたい。#
2.合併の趣旨(要点のみに簡略化)
岡崎は総合建設業で土木建設並びに機工事業部門を中心として全国展開している。特に鉄鋼メーカー関係の機工事業分野に大きな売上実績と高い技術力を持っている。
山九は物流近代化の中、機工事業部門を持つユニークな総合物流企業として国内外に販路を拡大し、鉄鋼・石油化学の重化学工業メーカーの物流事業分野に高い専門性を持つとともに、一貫作業体制を標榜する中で、機工事業部門においても応分の売上実績を上げている。
以上のごとく両社はその歴史的背景と関係する事業分野に共通した企業風土を有しており、その一体化は大きな合併効果を生み出すと確信する。
1.岡崎の土木建築部門と山九の物流から建設までの一貫作業体制の合体は山九の基幹事業である物流事業においてビジネスチャンスの大きな飛躍を見込める。
2.客先に多種のサービスを単一企業として提供できる。
3.人材の効果的な配置が可能となり、より一層の人材育成の場を創造することで今以上の働き甲斐のある職場を提供できる。
#最近長銀と住信の合併話が政府・日銀の圧力で進められているが、金融監督庁がリストラ策まで押しつけたとの報道は、岡崎と山九との合併話にラップして身につまされる思いがする。#
3.合併覚書
第1条 甲と乙は対等と互譲の精神で合併する。ただし、法手続き上は甲を存続会社とする。
第2条 合併後の商号は山九株式会社とする。
第3条 登記上の本店所在地は北九州市門司区とする。
第4条 合併比率は甲の株式8株に対し乙の株式10株とする。
第5条 合併期日は平成2年10月1日を目途とする。
又、甲と乙は平成2年6月開催予定の定時株主総会において合併契約書の承認を得るものとする。
第6条 新会社における役員候補者の選考については甲乙別途協議する。
第7条 新会社は甲および乙の従業員を合併期日を持って勤続年数通算の上、引き続き雇用する。
第8条 合併に関する細目を協議するため合併準備委員会を設ける。
第9条 上記の他合併に必要な事項は甲乙協議して決定する。
#くどくど書いてきたが、たったこれだけの項目を取り決めるについても、両社の間で丁丁発止のやり取りがあったので記録として残したものである。特に第1条は表面的にはこうするが、これしか方法が無かったのだという事を社内に徹底するようとの申し入れが口頭であった。#
4.両社の概要
| 摘要 | 山九株式会社 | 岡崎工業株式会社 |
| 設立年月日 | 大正6年11月27日 | 昭和24年1月14日 |
| 資本金 | 10,120 百万円 | 3,740 百万円 |
| 本社所在地 | 東京都港区 (登記上 北九州市門司区) |
北九州市八幡西区 |
| 株式上場 | 東京第1部 福岡 |
東京第1部 大阪第1部 福岡 |
| 従業員数 | 10,079人 | 3,435人 |
| 総資産 | 1,561億円 | 536億円 |
| 売上高 | 1,621億円 | 564億円 |
部門別売上高
| 港湾運送 | 513億円 | 土木部門 | 59億円 |
| 陸上運送 | 588億円 | 建築部門 | 59億円 |
| 機工作業 | 520億円 | 機工部門 | 430億円 |
| 不動産事業 | 15億円 | ||
| 山九合計 | 1,621億円 | 岡崎合計 | 564億円 |
#全体とすれば山九は岡崎の3倍の規模であるが、機工部門についてはほぼ同規模であるが、山九には石油化学部門があるので、鉄についてみれば岡崎が若干大きい。 私は、鉄部門に付いては規模内容とも負けていないので、この部門だけは対等にしたいと考えた。#
合併準備での出来事
社名問題
合併覚え書きで社名は山九株式会社にすると事前に了解していたのが、準備委員会で岡崎の社名を何らかの形で残したい希望を申し立てた。 特に建設部門にこの意向が強かった。 官公庁に山九では馴染みが無いとか、山九ではランクが落ちるとかが理由であった。 組合から突き上げられた一面もあるが、山九から見ると押しつけられた合併であり、妥協する余地があるはずも無い事で、申し入れたと言う実績作りの為だけの申し入れは、岡崎サイドで聞いていても空々しかった。
山九では Thank you! OK と言うロゴをCI活動として推進しており、このOKに岡崎の意味があると整理しても良いがとの申し入れが合ったが、取り合うような雰囲気は無かった。
山九は鮮やかな青色の作業服を使っていたが、この色についてもどぎつすぎるとして、作業服の色の変更を申し入れた。これとて一笑にふされた。
情報管理
岡崎社内にも合併準備の為の委員会が設けられた。 その場で種々の課題に対して、社としての方針をまとめる事にしたが、驚いた事に打ち合わせ内容が先方に筒抜けになっていることがわかった。 喧喧諤諤やっとまとまったと思ったら、1時間もしない内に先方との電話の中で、まとまったそうですねと言われて驚く始末で、社の方針が公式の場で議論される前に筒抜けになるのでは交渉にならない。 ご注進におよぶ人が出るものだなと納得するしかないが、少しでも弱い立場を交渉でカバーしようとしても、足元をさらわれることになった。
交渉事なので、相手の弱点を整理しそれに対してこちらサイドの主張点をまとめなければならないが、その弱点を探り出し勇気付ける為にこちらの強みを主張していたので、山九が引き取る役員から漏れる事になったものと思っている。
#情報開示は必要なものと思っているが、タイミングについて難しいな〜と言うのが本音である。#
管理スパン
山九は運送業から発展した会社で、前述のように売上の7割近くは輸送部門であり、残り3割が鉄鋼業、石油化学関連の業務となっている。岡崎は主体が鉄鋼業関連で、建設業にノミネートされていたがその比率は低かった。 そこで鉄鋼業、石油化学関連には、製造としての技術分野があり、輸送とは一線を画すべきであろうと言うのが私の主張であった。
私の管掌していた生産本部は鉄鋼業の中でのみ作業をしており、この経験しか持ち合わせていない。 所が山九は輸送をあくまで中心に考えるので、組織も地域別に作られていた。
作業発注会社から信頼されるパートナーを目指すには専門性が必要で、組織も専門性が活かせるものとし、岡崎出身者が実力を発揮できる会社組織にしないと合併の意味が薄れると思い主張した。
結局は、地域本部制を踏襲された。 となれば支店長など輸送の知識の無い岡崎出身者が成れようはずが無くなる。
などなど折衝中に、合併半年前の4月に山九は一方的に組織改正を行った。合併問題が出る前からの懸案であり遅きに失したものであると説明があったが、岡崎からは組織問題は合併準備委員会で審議されるべきものでこのような大幅な組織改正は調整の機能を減殺するものと反論したが蟷螂の斧にもならなかった。
具体的には輸送部門の支店の大幅拡大であり、ますます鉄関連の相対的社内位置付けの低下を来すものとなった。
役員持ち株
私が役員になったとき、自社株の取得は規制されていた。 役員持株会も無く、就任後すぐに合併の話が出てきたので、自社株の購入も出来なくなった。 そんな事で自社株を持たない役員であったが、社内の合併委員会で議論が沸騰した時、ある役員から株を持たない役員は発言権が無いと非難された事があった。
感情論に組せず、あるべき論を主張したのが癇に障ったらしいが、わずか数千株を持てば社に対して愛着があり、持たねば無責任な発言をするというのでは、議論は出来なくなってしまう。開いた口がしばらくは閉じれなくなった。
プロポーザルメンテナンス
作業外注
整備外注
新規分野開拓
スペースワールド
松下住設
平成2年8月末日 同社退社